不思議一覧

人体の不思議

何年位前だったか、造影剤を使ったCT検査を受けたことがある。

検査の三週間ほど前、仕事中に突然、左肩に激痛が走った。マッサージをするときに肩もみのツボがあるが、まさにその部位に、である。痛みは1、2分続き、そして収まった。

私の父は心筋梗塞で一度倒れている。私はそのとき父と一緒に居たので良く覚えている。その日は仕事を早目にあがり、仕事場からそう遠くないアパートで一人暮らしをしている父とタ飯を食べにいった。父はお好み焼きが好物だったので、父の家の近所の、馴染みのお店に行ったのである。

食事を済ませて店の外に出るといきなり父が「肩が痛い!」といってしゃがみ込んだ。私は何が起こったかわからないまま、最初はさほど重大なことだとは思わず「大丈夫?」と軽い気持ちで声を掛けていた。しかし、父はしゃがみ込んだまま、顔をしわくちゃにして痛がっている。何度か声をかけたが返事はなく、とにかく顔をしかめている。とりあえずこのまま少し休んでいればおさまるだろうと思っていたが、そのうち意識がなくなってきて、眠ったような状態になった。「これはまずい!只事ではない!」。やっとここで緊急事態であることに気付いた私はお好み焼き屋に舞い戻り、救急車を要請。10分程で救助隊員が駆けつけて病院へ連れていってくれた。検査結果、心筋梗塞とわかり、すぐさまカテーテル手術を施こしていただいて事なきを得た。

この時のことが頭に強く残っていたので、父の様に倒れこそしなかったが、私のこの肩の痛みはもしかしたらとても危ない状態なのではないかと、とても不安になった。ー時も早く病院で診てもらわなければ。その週末の土曜日に不安を抱えつつ、家近くの総合病院に行って診察してもらった。結果、緊急性はないが、循環器系に疾患が無いかどうかを検査した方が良いということになり、ニ週間後に造影剤を使ってCT検査をすることになったのだ。

前置きが少々長くなったが、人体の不思議というのは、造影剤の注射を打った時の事である。

検査前の説明で、「造影剤を打ったら、体が熱くなったりすることがあります。」と聞いていた。「ふーん、そうなんだ。」大して気にもせずに検査に臨んだ。CTの検査台に縛りつけられ、なんとか呼吸を整え、と書くとちょっと大げさに聞こえるかも知れないが、私は極度の閉所恐怖症で、体を固定されて狭い所に入れられるとかなり怖い。CTやMRIの検査はたまに受けるが、いつも気持ちを落ち着けるのに時間がかかってしまう。「大丈夫、ほんの10分程度のことだ、その間は眠っている事にすれば何ともないさ。」などと自分に言いきかせて恐怖心をやわらげる作業が必要だ。

どうにか落ち着いて、「では、よろしく」状態になったことを伝えた。「それでは、造影剤を注射しますね。」と言われ、注射をしていただいた瞬間にそれは起こったのだ。

一瞬で頭の中がかっと熱くなったのだ。「え! うそっ!」。あまりにも頭の中での反応が早かったので驚いてしまった。ほんの1秒かかったかかからなかったか、くらいの時間ですよ。ビックリだ。

ちょっと待て、ちょっと待ってくれ!今のは何なのだ!腕から頭まであっと言う間なの?そんなに血は速く流れているのかい?頭が熱くなったのと同時に頭が混乱した。「血って、腕とかで脈を計ったら”トクン、トクン” くらいしか動かんやろう、なんで一瞬で頭まで来るとね?」混乱して頭の中が九州弁になっていた。

血はどのくらいの速さで流れているのだろうか。少なくとも、”トクン、トクン” なんて腕の表面で大したことないイメージとは大きく違うに違いない。インターネットで検索すると、血液の流れる速さに関する情報がいくつか出てきた。「心臓から出た血液がまた心臓に戻ってくるのに25~30秒かかる」 「血液が流れる速さは時速200Km」 「大動脈の血は30m/分」など。調べて見ると、血液は思ったより相当速く流れているみたいだ。しかしこの三つは随分とレベルが違う様に思うのだが。何か算定の条件が異なるのだろうか。

今回のCT造影剤の件に一番良く当てはまるのは三番目の大動脈の情報だろう。1分で30mの速さは1秒で50cm。腕から入った造影剤がどのようなルートで頭に回ってくるのかはわからないが、この情報がピッタリくる。

ほんのこぶし大の心臓が毎秒50cmの速さで血液を送り出しているなんて、どれだけ大変な事だろう。しかも、休みなく、生きている間1秒も欠かさず、である。人の心臓は毎日毎日、このような凄い機能を働かせて人の命を守っているんだな、生きているっていうのはこのような人体の凄い仕組みで成り立っているんだな。と今回の件を通じて気付かせてもらいました。

ところで、こんな不思議な人体の仕組みを誰が作ったんだろうね。